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遺言

エンディングノートと遺言書の違い——書いておくべきはどっち?

2026年6月15日by 代表 髙岡宏

エンディングノートと遺言書の違い——書いておくべきはどっち?

エンディングノートと遺言書、何が違うのか。法的効力の有無だけでなく、それぞれの得意分野と使い分けを司法書士が解説。親にすすめるなら、自分が書くなら、どちらから始めるべきかがわかります。

書店の終活コーナーに並ぶエンディングノート。「これを書けば遺言書は要らないのでは?」と思われる方は少なくありません。実はこの2つ、役割がまったく違います。どちらか一方では足りない理由を、現場の経験からお話しします。

「ノートに全部書いてあったのに」という場面

以前、こんなご相談がありました。亡くなられた方が遺したエンディングノートを、ご家族が大切そうに持参されたのです。そこには財産の一覧から、誰に何を遺したいかという希望まで、丁寧に書き込まれていました。終活に真剣に向き合われたことが伝わってくる、立派なノートでした。

それだけに、残念でした。その方は、遺言書を作っていなかったのです。

エンディングノートには法的効力がありません。ノートに「自宅は長男に」「預金は兄弟で等しく」とはっきり書いてあっても、それだけでは不動産の名義変更も、預金の解約もできないのです。

結局、相続人全員で遺産分割協議を一からやり直すことになります。ノートの内容に全員が納得していれば良いのですが、一人でも異論があれば、故人の想いはあくまで「参考意見」にしかなりません。あと一歩、ノートの財産部分を遺言書にしておいてくれたら——そう思わずにいられないご相談は、決して珍しくありません。

2つの違いを整理する

エンディングノート遺言書
法的効力なしあり(財産の承継先を指定できる)
書き方自由(市販ノート・パソコンも可)民法の要件あり(方式を誤ると無効)
書ける内容制限なし(医療・葬儀・想いなど何でも)主に財産・身分に関する事項
書き直しいつでも自由可能だが方式に従う必要あり
費用ほぼゼロ自筆ならゼロ〜、公正証書は数万円〜

ポイントは、優劣の問題ではなく、守備範囲が違うということです。

エンディングノートにしか書けないこと

法的効力がないと聞くと頼りなく感じるかもしれませんが、エンディングノートには遺言書にない強みがあります。

生きている間のことを書ける

遺言書は亡くなった後に効力が生じるものです。一方、認知症になったときの介護の希望、延命治療への考え、入院時に連絡してほしい人——こうした「生きている間」の希望は、エンディングノートの領分です。

家族が困る「情報」を残せる

実務で痛感するのは、相続手続きの大変さの半分は「探すこと」だという事実です。どこの銀行に口座があるのか。保険には入っていたのか。スマホのパスワードは。誰に訃報を伝えればいいのか。

特に最近増えているのが、デジタル資産の問題です。通帳のないネット銀行やネット証券の口座は、家族がその存在に気づくこと自体が難しい。毎月引き落とされ続けるサブスクの解約にも、手がかりが要ります。こうした情報こそ、エンディングノートの出番です。

エンディングノートに財産の一覧や連絡先が書いてあるだけで、遺された家族の負担は大きく減ります。

想いを自由に残せる

遺言書にも「付言事項」として想いを書くことはできますが、分量や気軽さの面ではエンディングノートに軍配が上がります。

遺言書にしかできないこと

一方で、財産の行き先を確定させる力は遺言書にしかありません。

  • 自宅を特定の子に相続させる
  • 相続人以外(お世話になった人・団体)に財産を渡す
  • 遺言執行者を指定して、手続きを任せる

特に不動産をお持ちの方は重要です。遺言書があれば、相続人全員の遺産分割協議を経ずに名義変更ができます。きょうだいの仲が悪くなくても、全員の印鑑を揃えるのは想像以上に手間がかかるものです。

遺言書さえあれば——子どものいないご夫婦のケース

実務で「遺言書さえあれば」と最も強く感じるのが、お子さんのいないご夫婦の相続です。

ご主人を亡くされた奥様からのご相談でした。お子さんがいない場合、相続人は配偶者だけではありません。亡くなった方の親、親がすでに他界していれば兄弟姉妹が相続人に加わります。このケースでは、長年連れ添った奥様が自宅の名義変更をするために、ほとんど行き来のなかったご主人の兄弟に遺産分割協議への協力をお願いすることになりました。

ところが、話は協力のお願いでは済みませんでした。そのご兄弟は経済的に困窮しており、「1円でも多くほしい」と強く主張してきたのです。話し合いでの解決は望めず、このケースは家庭裁判所の遺産分割調停へと進むことになりました。調停でもまとまらなければ、裁判所が分け方を決める審判手続きまで争いが続くことになるでしょう。

もしご主人が「全財産を妻に相続させる」という遺言書を一通遺していたら、こんなことには一切ならなかったのです。兄弟姉妹には遺留分(最低限の取り分を請求する権利)がないため、遺言書があれば文字どおりそれだけで完結し、協議すら不要でした。

考えてみてください。公正証書遺言の作成費用は数万円程度です。一方、調停や審判まで争えば、弁護士費用だけで数十万円から百万円を超えることもあり、解決まで1年以上、精神的な負担はお金に換算できません。このコストを比べれば、遺言書を書いておくほうが圧倒的に安い——これが現場で争いを見てきた実感です。

子どものいないご夫婦にとって、遺言書は「あれば便利」ではなく「なければ配偶者が困る」ものだと、ぜひ知っておいてください。

遺言書のハードルは、昔より下がっている

「遺言書は敷居が高い」というイメージをお持ちの方も多いのですが、近年の制度改正でかなり書きやすくなっています。

財産目録はパソコンで作れる

自筆証書遺言は全文を自書するのが原則ですが、2019年の改正で、財産目録の部分はパソコンでの作成や通帳のコピー添付が認められました。財産が多い方ほど、この負担軽減は大きいはずです。

法務局が遺言書を預かってくれる

2020年に始まった自筆証書遺言書保管制度を使えば、法務局が遺言書の原本を保管してくれます。手数料は1通3,900円。紛失や改ざんの心配がなくなるうえ、通常の自筆証書遺言で必要となる家庭裁判所の検認手続きも不要になります。

「書いたはいいが、どこにしまったか家族に伝わらない」——自筆証書遺言で実際によくある問題が、この制度でほぼ解消されます。

エンディングノートで内容の整理ができていれば、遺言書の作成は半分終わったようなものです。残りの半分——法的に有効な形に仕上げる部分は、私たち専門家がお手伝いできます。

結論:順番は「ノートから」、ゴールは「両方」

「どちらを書くべきか」と聞かれたら、私はこうお答えしています。

まずはエンディングノートから始めてください。ただし、財産の項目を書いたら、その部分は遺言書にしてください。

エンディングノートは気軽に始められ、書く過程で自分の財産と想いが整理されます。そして財産の一覧を作ってみると、「これは誰に遺したいか」が自然と見えてきます。その結論を法的に有効な形にするのが遺言書です。

つまり、エンディングノートは遺言書の下書き・設計図として、これ以上ない働きをしてくれるのです。

なお、親御さんに終活をすすめたい子世代の方へ。「遺言書を書いて」と切り出すと身構えられてしまうことが多いものです。まずはエンディングノートを一冊手渡して、「困らないように情報だけでも整理しておいてほしい」と伝えるほうが、ずっと受け入れられやすい——これは多くのご家族を見てきた実感です。

まとめ

  • エンディングノートに法的効力はない——財産の承継先は遺言書でしか確定できない
  • ただしエンディングノートには、医療・介護の希望や財産情報の整理など、遺言書にない役割がある
  • おすすめの順番は「エンディングノートで整理 → 財産部分を遺言書に」
  • 2つは「どちらか一方」ではなく、セットで使うもの

ご自身のことはもちろん、「親に何かすすめたい」という方は、まずエンディングノートを一冊手渡すところから始めてみませんか。そして財産の項目が埋まってきたら、次の一歩です。クロニクルの生前対策コンサルは、まずはご家庭の健康診断を、という位置づけのサービスです。ノートに書き出した内容をもとに、遺言をはじめ何がどこまで必要かの論点整理からご一緒します。お気軽にご相談ください。

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