司法書士・土地家屋調査士事務所クロニクル
遺言

遺言を書いても、遺留分は消えません——想いどおりに「渡し切る」ための3つの設計

2026年7月13日by 代表 髙岡宏

遺言を書いても、遺留分は消えません——想いどおりに「渡し切る」ための3つの設計

公正証書にしても、遺留分は消えません。実家が主な財産のご家庭では、遺言の書き方しだいで、家を継ぐ子が現金の支払いを迫られることも。福岡の司法書士・土地家屋調査士が、侵害額を減らす・原資を用意する・動機を下げるという3つの設計を、事例と早見表で整理します。

前回の記事は、「公正証書にしても、遺留分の問題は消えない」という話で締めくくりました(公正証書遺言の作り方と費用)。今回はその続き、遺言の中身の話です。遺留分まで見据えて、配分をどう設計するかを扱います。

本題の前に、3つだけ確認させてください。①相続人になるのは誰ですか。②特定の誰かに多く渡したい事情がありますか。③主な財産は、実家などの不動産ですか。

もし「みんなに均等に分ける予定」なら、遺留分対策は基本的に不要です。相続人が兄弟姉妹だけという方も、この後の早見表のとおり、そもそも遺留分の問題が生じません。どうぞ安心してページを閉じていただいて構いません。

一方で、「実家は長男に」「介護をしてくれた娘に多めに」という想いのある方。配分に想いがある人ほど、遺言には設計が要ります。この先を読んでみてください。

遺留分とは——誰に、どれくらいあるのか

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された、遺産の最低限の取り分です(民法1042条)。遺言でも、この取り分をなくすことはできません。誰に、どれくらいあるのか——早見表にまとめました。

相続人の構成遺留分の合計内訳の例
配偶者と子2人遺産の2分の1配偶者4分の1、子は各8分の1
子2人だけ遺産の2分の1各4分の1
配偶者と親遺産の2分の1配偶者3分の1、親は合計6分の1
親だけ遺産の3分の1
兄弟姉妹だけなし遺留分はゼロ

注目していただきたいのは、最後の行です。兄弟姉妹には遺留分がありません。お子さんのいないご夫婦が「全財産を配偶者に」と遺言しておけば、きょうだいから取り分を主張される余地はないのです。遺言をめぐる数少ない朗報といえます。

具体例をひとつ。仮に田中家とします。お母さまの財産は実家2,000万円と預金500万円、相続人は長男と長女の2人。「実家は長男にすべて相続させる」と遺言した場合、長女の遺留分は2,500万円×2分の1×2分の1で625万円です。

ただし、これはあくまで一例です。生前贈与の持ち戻しなどで基礎となる財産の額は変わるため、実際の金額は個別のご相談で確かめることをお勧めします。

2019年の改正で、遺留分は「お金の請求」になりました

2019年7月1日以降に始まった相続では、遺留分の権利は「遺留分侵害額請求」という金銭の請求権になりました(民法1046条)。ネット上には今も「遺留分減殺請求で不動産が共有になる」という解説が残っていますが、それは2019年6月30日以前に始まった相続の話です。現在は、お金で払う一本になっています。

この変化は、実家が主な財産のご家庭にこそ響きます。先ほどの田中家で、仮に預金も含めた全財産を長男に渡す遺言だったとします。長女が請求を選ぶと、実家を継いだ長男は625万円を現金で支払う立場になります。遺言で預金500万円をすべて長女に渡す配分に変えても、まだ125万円足りません。長男は自分の蓄えから工面するか、実家の売却を考えるか、という局面もありえます。「不動産はあるが現金は少ない」ご家庭が、この仕組みでは構造的にいちばん苦しいのです。

「うちは財産が少ないから関係ない」とも言い切れません。令和4年司法統計によると、家庭裁判所の調停や審判で決着した遺産分割事件のうち、およそ4分の3は遺産5,000万円以下でした。1,000万円以下だけでも約3分の1を占めます。

もっとも、遺留分を侵害する遺言を書いたら、すぐ紛争になるわけではありません。正確に言えば、「請求する」という選択肢を相手に残す、ということです。だからこそ、書く前の設計に意味があります。

現場では、こんなご相談が少なくありません。「実家は長男に継がせたい、でも預金はほとんどない」。この資産構成が、いちばん危ういのです。長女が請求を選べば、実家を継いだ長男は自分の財布から遺留分を払う立場になります。手元にお金がなければ、先祖代々の土地を売って工面するほかない——承継のために書いた遺言が、その土地を手放す引き金になる。これでは本末転倒です。この落とし穴を避けられるかどうかは、書く前の設計にかかっています。そしてそれは、ご自身だけで組み立てるには難しい領域です。

設計でできる3つのこと——減らす・用意する・動機を下げる

遺留分は、遺言でなくすことはできません。設計でできるのは、①侵害額を減らす、②支払いの原資を用意する、③請求の動機を下げる——この3つです。

第一に、侵害額を減らす配分です。出発点は、財産の全体像をつかんで遺留分を試算すること。財産目録の作り方が第一歩になります。実家を長男に渡したい事情があっても、預金や他の資産を長女に割り付けて、侵害額そのものを小さくできないか検討します。なお、10年より前の生前贈与は原則、遺留分の計算に入りませんが、例外もあり単純化は禁物です。贈与税の扱いは税理士の領域です。

第二に、支払いの原資を用意することです。選択肢のひとつに、実家を継ぐ子を受取人にした生命保険があります。死亡保険金は原則、遺留分計算の基礎に含まれないというのが最高裁の判断です(平成16年10月29日決定)。ただし、不公平が著しい場合は例外的に取り込まれることもあり、「保険にしておけば万全」とまでは言えません。本記事では、原資を準備する選択肢のご紹介に留めます。加入の判断や税務は提携のFP・税理士の領域で、ご希望があればクロニクルが窓口となってお繋ぎします。

第三に、請求の動機を下げることです。遺言には付言事項という、自由に想いを書ける欄があります。法的な効力はありません。それでも、配分の理由と家族への感謝を自分の言葉で残すことには意味があります。請求の引き金は、金額そのものより「自分だけ軽く扱われた」という不公平感だからです。逆に、特定の相続人を非難する内容は火に油を注ぎます。

よくある誤解をひとつ。生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可制で、本人の自由な意思と見合う代償が実質的に求められます。「親が子に放棄させる」ことはできないとお考えください。

ご相談で印象に残るのは、配分を決めた「動機」です。たとえば、長く親の介護を担った子に報いたい——そうした前向きな理由であれば、付言事項に想いを綴り、元気なうちに家族へ言葉で伝えておくだけで、相続の場は驚くほど穏やかになります。一方、事情が込み入っている場合は、それ相応の原資の準備が要ります。どちらであっても、先に数字を見て全体像をつかんでおくと、「何を、どこまで備えるか」が定まります。数字を先に見たことで、家族の話し合いがかえって前向きに動き出す——そんなご相談は、決して珍しくありません。

正直に言います——紛争になったら、弁護士です

線引きをはっきりお伝えします。遺留分侵害額請求の交渉や、調停・訴訟の代理は弁護士の領域です。紛争になってからは弁護士、紛争にしないための設計が司法書士。時間軸で役割が分かれています。万一、紛争性が出てきた場合も、ご自身で弁護士を探していただく必要はありません。クロニクルが窓口となって、提携の弁護士へお繋ぎします。

そのうえで、設計の段階で私たちにできることがあります。遺留分トラブルの震源は、多くの場合「実家不動産の評価と分け方」です。クロニクルは司法書士と土地家屋調査士を兼ねているため、土地の現況・境界・面積を固め、分筆といった分け方の選択肢まで一体で検討できます。そこから遺言の設計、遺言執行者の選び方、そして相続登記まで一気通貫でお手伝いします。

まとめ——お母さまが元気な「今」が、設計の適期です

遺留分に配慮した遺言づくりは、ご本人が元気で、判断力のあるうちにしかできない生前対策そのものです。形式面の備えは自筆証書遺言の落とし穴で扱いました。

子世代の方へ。親に「私の取り分」の話を切り出すのは、角が立ちます。だからこそ、財産目録づくりや、専門家という第三者を入口にしてみてください。クロニクルの生前対策コンサルティングでは、ご家庭の健康診断として、遺留分を含む論点の整理からお手伝いしています。気がかりがあれば、気軽にご相談ください。

最後に、ひとつ問いを残します。あなたの遺言は、想いを「書いた」だけになっていませんか。想いどおりに「渡し切る」設計になっていますか。

このテーマの専門サービス

遺言書作成

遺言」に関するご相談は、福岡の司法書士・土地家屋調査士事務所クロニクルにお任せください。

遺言書作成のサービス詳細を見る →

Continue with us

ご家族の対話を支える「20の問い」

クロニクルが現場で見つけた、揉めない家族会議のはじめ方を、1冊にまとめました。

LINE 友だち追加で「家族会議の20問」PDFをプレゼント。月1回・続編ガイド・セミナー案内・最新トピックをお届けします。

LINE で友だち追加して受け取る

月1回・解除はいつでもワンタップ・スパムなし

ご相談を希望される際は、こちらからお気軽にどうぞ。

電話受付: 平日 9:00 - 18:00 / 土日祝除く