司法書士・土地家屋調査士事務所クロニクル
遺言

もしもの時、家族はあなたの財産を探せますか——元気なうちに作る「財産目録」

2026年6月1日by 代表 髙岡宏

もしもの時、家族はあなたの財産を探せますか——元気なうちに作る「財産目録」

「どこに何があるか」を知っているのが本人だけだと、残された家族は財産を探すところから始めることになります。福岡で相続・生前対策の現場に立つ司法書士が、実際に見てきた「目録がないと起きること」と、明日から動ける財産目録の作り方を、現場目線でお伝えします。

「いくらあるか」より先に、家族が困ること

相続のご相談で、ご家族からいちばん最初に出てくるのは「いくら遺したのか」ではありません。

「そもそも、どこに何があるのか分からない」——これです。

通帳をかき集め、郵便物をたどり、心当たりの銀行に一軒ずつ電話する。葬儀でただでさえ消耗している時期に、まず財産を探すことから始めなければならない。これが、備えのなかった相続のリアルな入り口です。

故人が残した貴重な財産が埋もれたままにならないためには、では、どうしたらよいか?

そこで効いてくるのが財産目録です。難しく考えなくて大丈夫で、要は「自分にどんな財産と借金があるか」を書き出した一覧。これを元気なうちに一枚作っておくだけで、上のような事態はかなり防げます。この記事では、わたしたちクロニクルが福岡で相続・生前対策の現場に立つなかで見てきた「目録がないと実際に起きること」を起点に、作り方までをお伝えします。

現場で本当に起きる、3つの「探せない」

財産目録の話は、項目を並べるより、ないと何が起きるかを知るほうが腹落ちします。現場でよく出会う3つの場面です。

1. 認知症で口座が凍結され、生活費が動かせない

判断能力が低下すると、本人名義の預金は原則として動かせなくなります。家族であっても、です。介護費用や施設の支払いが必要なのに、目の前の口座に手が届かない——相続の前段階で、これがいちばん切実です。

2. デジタル遺産が、存在ごと見えない

ネット銀行・ネット証券・暗号資産・有料サブスク——これらは紙の通知が届きません。本人しか存在を知らず、家族は「あるかどうか」すら分からない。最近いちばん取りこぼされやすいのがここです。

セキュリティには十分に気をつける必要がありますが、各ネット金融機関のIDとパスワード、そして忘れてはいけないスマートフォンやパソコンのパスワードについても、何らかの形で家族に伝わるようにしておくことが肝要です。

3. 保証債務が、相続のあとに出てくる

プラスの財産は通帳で追えますが、こわいのはマイナス側。とくに他人の借金の保証人になっている保証債務は、本人以外にはほぼ見えず、相続してから判明することがあります。

借用書だけ出てくるなんてケースもありますが、すでに完済済みのものかどうかは不明です。不要な手続きをさせないためにも、お元気なうちに整理をすることをお勧めします。

——この3つに共通するのは、「本人が一覧にしてさえいれば防げた」という一点です。

もし、すでに「探す側」になっているなら

手がかりがなく探すしかない状況なら、地方ではまず ゆうちょ銀行 と JA(農協)を当たってみてください。地域では、このどちらかに口座を持っている方がとても多いためです。実務でも、行き詰まったときの最初の一手にしています。

また、福岡にお住まいの方であれば、福岡銀行と西日本シティ銀行を上記に加えてもよいかもしれません。

裏を返せば——生前の目録に、最低限この2つの口座の有無を書いておくだけでも、家族はぐっと助かります。

エンディングノート・遺言と、どう違う?

「それ、エンディングノートと同じでは?」とよく聞かれます。役割が重なる部分もありますが、整理するとこうです。

役割法的効力
財産目録財産・借金の全体像を一覧化するなし(現状把握)
エンディングノート財産+希望・想いまで幅広く残すなし
遺言書誰に何を承継させるかを定めるあり

財産目録そのものに法的効力はありません。誰に渡すかを決めるのは遺言の役割で、目録は「その前提となる現状把握」を担います。順番としては、まず目録で全体を見渡し、そのうえで遺言や家族信託を設計する、が自然な流れです。

なお、遺言の世界にも財産目録は登場します。自筆証書遺言は本来すべて手書きですが、2019年1月施行の民法改正(民法968条2項)で、添付する財産目録についてはパソコン作成や通帳コピーの利用が認められました(各ページへの署名押印は必要)。生前に作った目録が、そのまま遺言作成の下地になります。

見落としやすい「盲点」から書く

書く項目は「プラス財産・マイナス財産・付帯情報」の3分類ですが、一般的なリストはネットにいくらでもあります。ここでは現場で実際に抜けやすい盲点に絞ります。

  • デジタル資産——ネット銀行・証券・暗号資産・サブスク。「紙が来ない=家族に見えない」を意識して書き出す
  • 保証債務・借入——マイナスこそ書く。プラスとマイナスが揃ってはじめて、相続するか放棄するかを判断できる
  • 名義預金——配偶者や子の名義でも、実質が本人の財産なら論点になります。気になる口座はメモを
  • 不動産の「評価」——同じ土地でも公的な価格は複数あります。所在地と固定資産税の納税通知書を控えておくだけでも、後がぐっと楽に

作り方は「完璧より、まず一枚」

身構えると続きません。順番はシンプルです。

  1. 棚卸し——通帳・郵便物・証券・保険証券を集め、思いつくものを粗く書き出す
  2. 様式を決める——手書き・Excel・アプリ、続けやすいものでOK。決まりはありません。紙に手書きで十分です
  3. 保管場所を決め、信頼できる家族に伝える——ありかが分からなければ、どんな目録も意味がありません。手書きの紙を折りたたんで財布や鞄に入れておくと、いざというとき見つけてもらいやすくなります。ただし紛失・盗難のリスクもあるので、口座番号やパスワードそのものは書かないなど、セキュリティとのバランスでお気をつけください
  4. 年に一度、更新する——誕生日や年末など、タイミングを固定すると続きます

最初から完璧を目指さないこと。主要な口座と不動産だけでも書き出せば、それでもう家族の負担は大きく変わります。

よくある質問:金額まで書くんですか?

いいえ、金額の記載は不要です。残高は日々変わりますし、目録の目的は「どこに・何があるか」を家族がたどれること。金額まで書こうとすると更新が大変になり、かえって続きません。まずは「ある場所」さえ分かれば十分です。

財産目録は、生前対策の「入り口」

目録づくりの本当の価値は、作る過程で自分の財産と一度きちんと向き合えることにあります。全体が見えると、次の備えが具体的に見えてきます。

  • 認知症で凍結される前に動かしたい財産があれば → 家族信託
  • 判断能力が落ちたあとの管理・契約を任せたいなら → 任意後見
  • 誰に何を渡すか決めておきたいなら → 遺言書

なかでもおすすめは遺言です。遺言を残そうとすると、その過程で自然に財産の棚卸し——つまり財産目録づくりが進みます。前述のとおり2019年の改正で、遺言に添付する目録はパソコン作成や通帳コピーでもよくなりました。遺言に取り組むこと自体が、財産目録を完成させる近道にもなるのです。

特別な準備はいりません。目録づくりは、誰でも今日から始められる最初の一歩です。

さいごに——あなたの家族は、探さずに済みますか?

もし今日あなたに何かあったとき、ご家族は「どこに何があるか」を、探さずにたどり着けるでしょうか。

一度、頭の中だけでいいので数えてみてください。すぐに全部を言い切れたなら立派な備えですし、詰まったなら——それが、目録を作りはじめるちょうどいい合図です。

クロニクルでは、財産の棚卸しから、ご家族の状況に合った備え(家族信託・任意後見・遺言)の設計まで、福岡で生前対策のご相談をお受けしています。「うちの場合は何から?」という入り口から、ご一緒に考えます。

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