家族信託が向くケース・向かないケース——9つの判断軸で自己診断
2026年4月23日by 代表 髙岡宏

家族信託は万能ではありません。ご家庭の状況によっては、遺言や任意後見の方が適していることもあります。福岡の司法書士が、家族信託が「向くケース」7つと「向かないケース」5つを整理し、ご自身での判断をサポートする9つのチェック項目をご紹介します。
前回の記事「親の実家、売るに売れない──元気なうちに備える『実家信託』という選択」で、家族信託が認知症対策として有効であることをご紹介しました。
しかし、ご相談をお受けしていると、「家族信託は万能な魔法のような仕組みだと聞いたのですが、本当でしょうか?」というお声をいただくことがあります。
結論から申し上げると、家族信託にも向き・不向きがあります。家族構成・財産状況・ご家族の関係性によっては、遺言や任意後見のほうが合っているケースもあるのです。
この記事では、家族信託が向くケース7つと向かないケース5つを整理し、ご自身のご家庭に当てはまるかどうかを判断するための9つのチェック項目をご紹介します。
まず、家族信託の基本をおさらい
詳細は前回の記事に譲りますが、家族信託の本質は次のとおりです。
- 元気なうちに、信頼できる家族に財産管理を託す契約
- 委託者(親)・受託者(子)・受益者(親=委託者と同じ)の三者構造
- 認知症発症後も、受託者の判断で財産を動かせる
- 遺言のように次世代・次々世代への承継も設計可能
この特徴を踏まえて、どんなご家庭に向いているかを見ていきます。
家族信託が向くケース 7選
① 収益不動産を所有している
アパート・マンション・貸家などの収益不動産をお持ちの方は、家族信託が強く推奨されます。
理由は、認知症発症後に家賃の管理・修繕契約・建替え・売却ができなくなるからです。成年後見制度では積極的な運用が認められにくく、「本人の財産を守る」ことを優先するため、修繕さえも許可がおりないケースがあります。
受託者(子)が管理者として動ければ、賃貸経営の継続性が担保されます。
② 子が遠方在住で、頻繁に実家に戻れない
ご本人(親)が地方の実家で独居、お子様が都市部にお住まいの場合、介護発生時の意思決定が大きな課題になります。
家族信託を結んでおけば、お子様が受託者として遠方からでも実家の売却・管理を判断できるようになります。
③ 将来、実家を売却することを視野に入れている
「親が介護施設に入所したら実家を売却して費用に充てる」という想定があるご家庭では、家族信託が最適です。
認知症発症後に売却しようとしても、成年後見人の選任と家庭裁判所の許可で半年以上かかるのが一般的。家族信託なら受託者の判断で即座に売却活動に入れます。
④ 兄弟姉妹間で意思統一を図りたい
相続人が複数いる場合、誰が中心となって財産管理をするかを生前に決めておけるのが家族信託の大きな利点です。
受託者を1人に定め、他の兄弟姉妹には受益権や遺留分対応で配慮する設計が可能です。相続発生後の「争族」リスクを事前に低減できます。
⑤ 二次相続・三次相続まで見据えたい
遺言では「一代先」までしか指定できません(後継ぎ遺贈は無効)。しかし家族信託なら、次々世代までの承継指定が可能です。
例えば「自分 → 妻 → 長男 → 長男の子」という流れで財産を承継させたいご家庭では、家族信託が唯一の選択肢になります。
⑥ 障がいのあるお子様・ご家族がいる
ご家族に障がいのある方がいらっしゃる場合、親亡き後の生活が心配の種になります。
家族信託を活用すれば、信頼できる親族に財産管理を託し、障がいのあるお子様の生活費を継続的に給付する仕組みを作れます。成年後見制度よりも柔軟な対応が可能です。
⑦ 事業承継を段階的に進めたい
中小企業オーナーの方は、株式の議決権だけを先行移転させたい場合などに家族信託を活用できます。
議決権行使は信託内で受託者が行い、配当受益権は本人が保持する設計で、段階的な事業承継を実現できます。
家族信託が向かないケース 5選
① 財産規模が極めて小さい
自宅以外の財産がほとんどなく、金融資産も少額の場合、コスト倒れになる可能性があります。
家族信託の初期費用は最低でも50〜100万円程度。財産が数百万円規模であれば、遺言書の作成(数万円〜)のほうが経済的に合理的です。
② すでに判断能力が低下している
家族信託は契約であるため、ご本人の判断能力が必要です。
すでに認知症と診断され、契約の内容を理解できない状態であれば、家族信託は成立しません。この場合は法定後見制度の利用が唯一の選択肢となります。
一方、「物忘れが少し気になる」「軽度認知障害(MCI)と言われた」段階であれば、医師の診断書と慎重な意思確認により契約できる可能性があります。判断に迷われる場合は早めにご相談ください。
③ 信頼できる受託者候補がいない
家族信託は受託者を信頼することが前提の制度です。
以下の状況では、家族信託ではなく専門職による成年後見や信託銀行の遺言信託を検討したほうがよいでしょう。
- 家族に財産管理を任せられる人がいない
- 親族内で過去に金銭トラブルがあった
- 受託者候補が浪費傾向・ギャンブル癖など信用に不安がある
④ 家族間で深刻な対立がある
家族信託は、家族全体の合意形成があって初めて機能します。
特定の相続人だけに有利な信託を組もうとすると、他の相続人から遺留分侵害額請求や信託無効確認訴訟を提起されるリスクがあります。
ご家族間の関係性に深刻な対立がある場合は、まず弁護士による家族会議の調整から始めるのが賢明です。
⑤ 節税目的だけを期待している
家族信託は財産管理の仕組みであり、節税効果は基本的にありません。
- 贈与税:委託者=受益者なら発生しない(節税でもない)
- 相続税:信託財産も相続税の課税対象
- 不動産取得税:信託による名義変更では非課税
「節税のために家族信託をしたい」という動機だけでは、期待外れに終わります。目的は認知症対策・承継設計に絞って検討してください。
9つの判断軸——ご自身のご家庭は?
以下の質問に、YES / NO で答えてみてください。
- ご本人(親)の判断能力は現在しっかり保たれている
- 信頼できる受託者候補(子・甥姪等)が1人以上いる
- ご家族内で深刻な対立はない
- 不動産または1,000万円以上の金融資産がある
- 将来、実家売却または不動産運用を継続する可能性がある
- 親が遠方独居、または介護発生時の備えを考えたい
- 二次相続以降(配偶者・子の相続)まで見据えたい
- 成年後見制度の制約(裁判所関与・専門職報酬)を避けたい
- 単なる節税目的ではない
判定の目安
- YESが7つ以上:家族信託の検討を強くおすすめします
- YESが4〜6つ:家族信託も含めた複数の選択肢(遺言・任意後見等)を比較検討
- YESが3つ以下:家族信託以外の制度(遺言・法定後見等)のほうが適している可能性
迷ったら「一度相談」が最適解
ここまで9つの判断軸をご紹介しましたが、実際のご家庭の事情は千差万別です。
「自分のケースは向くのか、向かないのか」を正確に判断するには、ご家族の状況を専門家と一緒に整理するのが最も確実です。
ご相談の結果、「家族信託よりも遺言のほうが合っていますね」と別の制度をご提案することも頻繁にあります。ご家庭に合った最適解を一緒に探すことが、私たち専門家の役割です。
まとめ
- 家族信託は万能ではない。ご家庭の状況によって向き不向きがある
- 向くケース:収益不動産保有・子が遠方・実家売却想定・複数相続人・二次相続見据え・障がい家族・事業承継
- 向かないケース:財産少額・判断能力低下・信頼できる家族なし・家族対立・節税目的のみ
- 9つの判断軸で自己診断してから、専門家と相談するのが理想的な流れ
当事務所クロニクルでは、ご家族の状況を伺ったうえで、家族信託・遺言・任意後見・成年後見のどれが最適かを中立的な立場でご提案しています。司法書士と土地家屋調査士のダブルライセンスにより、不動産が絡むご相談にもワンストップで対応できます。
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