親が亡くなり実家が空き家に——名義変更しないとどうなる?
2026年6月16日by 代表 髙岡宏

親名義のままの実家を放置すると、相続人が増えて話し合いそのものが難しくなっていきます。相続登記義務化の正確なところと2027年3月31日の期限、費用の目安、遠方からの進め方を司法書士が解説します。
実家の名義、親のままになっていませんか。責められる話ではありません。放置の本当のリスクは、罰則よりも「家族で決められる状態」が静かに失われていくことにあります。
「実家が親の名義のまま」は、あなただけではありません
親を亡くしたあと、実家の名義変更をしないまま数年——そんなご相談は決して珍しくありません。総務省の調査では、全国の空き家は約900万戸と過去最多。福岡県内にも約33.5万戸あります。実家の扱いに迷っているのは、あなただけではないのです。
2024年4月から、相続登記(名義変更の登記)は法律上の義務になりました。それより前に発生した相続も対象で、多くの場合は2027年3月31日が申請の期限です。「昔の相続だから関係ない」とは言えなくなりました。ただし裏を返せば、今から動けば間に合うということでもあります。放置すると実際に何が起きるのかを、現場の実感からお伝えします。
兄弟4人の話だったはずが——放置した実家に起きること
名義変更の放置で最も重くのしかかるのは、過料でも税金でもありません。話し合う相手が増えていくことです。
亡くなった方の名義を変えるには、原則として相続人全員の遺産分割協議が必要です。放置している間に相続人の誰かが亡くなると、その権利は配偶者や子へ引き継がれます。これを数次相続と呼びます。兄弟4人で決めればよかったはずの話が、いつの間にか甥や姪を含む協議に変わっていく。会ったこともない相手に、実印と印鑑証明書をお願いする立場になるのです。
さらに、所在の分からない方や認知症で判断が難しい方がいると、協議は止まります。不在者財産管理人や成年後見人の選任が必要になり、費用も期間も大きく膨らみます。
実際に、こんなご相談がありました。亡くなった方のお子さんである4人のきょうだいで分ければよい——当初はそのはずでした。ところが、そのうちの二男はすでに亡くなっており、相続分はお子さんたちへ引き継がれていました。
二男は三度の結婚を経ていて、お子さんたちはそれぞれ母親の異なる異母きょうだい。離婚の際にもめた経緯もあり、お子さんたちは父の兄弟、つまり手続きをお願いする側の伯父たちに、よい感情を持っていませんでした。
会ったこともなく、感情のしこりも残る相手に、まず一通の手紙を差し上げるところから始まります。最初の手紙は、事務的になりすぎず、それでいて不躾にもならないよう、何度も書き直しました。お返事をいただき、面談や説明を重ね、最終的に実印と印鑑証明書をお預かりするまでには、半年以上の時間を要しました。書類一枚の話ではなく、こじれた感情をほどく時間こそが必要だったのです。
「売る予定がないから関係ない」の落とし穴
「住む予定も売る予定もないから急がなくていい」と思われるかもしれません。けれど、売却も賃貸も、解体補助金や空き家バンク、相続土地国庫帰属制度の利用も、入口で名義が問われます。親名義のままでは、どの出口も選べないのです。
「売りたくなったらその時に」も危うい考え方です。相続登記には戸籍収集や協議を含めて数か月かかることがあります。買い手が現れてから始めると、商機を逃しかねません。放置とは「決めないでおくこと」ではなく、選択肢が静かに減っていくことだと、現場では感じます。
管理の責任も残ります。登記をしていなくても、相続人は所有者として実家の管理責任を負います。塀や外壁が崩れて通行人にけがをさせれば、損害賠償責任を問われ得ます。固定資産税の納税義務も、登記の有無にかかわらず相続人にあります。さらに、管理不全で自治体の勧告を受けると、住宅用地の税軽減が外れて固定資産税が上がることもあります。
義務化と過料の正確なところ——応急処置の制度もあります
2024年4月1日、相続登記の申請が義務化されました。不動産の取得を知った日から3年以内の申請が必要で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます。
ただし、いきなり過料が科されるわけではありません。まず法務局から登記申請の催告が行われ、それでも正当な理由なく応じない場合に、裁判所の判断を経て科される運用です。
遺産分割の話し合いがすぐまとまらない場合には、相続人申告登記という制度があります。自分が相続人であることを法務局に申し出れば義務を果たしたものと扱われ、登録免許税はかかりません。1人で手続きできます。ただし名義が移るわけではないため、これだけでは売却などはできません。協議がまとまったら、その日から3年以内に改めて登記が必要です。応急処置にはなりますが、根本解決の先送りであることは知っておいてください。
期限の目安は、義務化より前に発生した相続なら2027年3月31日です。
今やるなら——費用の目安と進め方、遠方でも動けます
費用の中心は登録免許税で、固定資産税評価額の0.4%です。評価額1,000万円なら4万円。地方の実家は評価額が低いことも多く、数万円で収まるケースは珍しくありません。評価額100万円以下の土地には免税措置もあります(適用期限は最新の情報をご確認ください)。これに戸籍取得などの実費と、依頼する場合は専門家報酬が加わります。
ここで、今やる費用と放置後の費用を比べてみてください。今なら兄弟数人の協議と数万円の税で進められる話も、相続人が増えてからでは戸籍収集の範囲も協議の相手も広がります。行方不明の相続人がいれば、不在者財産管理人の選任が必要になることもあります。その際は裁判所に予納金を納める必要があり、金額は管轄の裁判所によって異なりますが、数十万円から百万円程度に及ぶこともあります。名義変更は事後処理ではなく、実家の将来を家族で決められる状態を保つための先行投資なのです。
相続登記はご自身でも申請できます。一方で、相続人が多い・疎遠・数次相続が起きている・戸籍が複雑といった場合は、司法書士が力になれる場面です。遠方にお住まいでも、郵送やオンライン、委任により現地へ行かずに進められます。戸籍集めは広域交付制度で負担が大きく減りました。詳しくは戸籍の広域交付のコラムをご覧ください。財産の全体像の整理には、財産目録のつくりかたが参考になります。
なお、空き家を売却した場合の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例など、税の制度もあります。適用できるかどうかの判断は、税理士にご確認ください。
次の世代に同じ思いをさせないために——遺言という備え
今回の名義変更が済んだら、次に考えたいのはご自身の番の相続です。相続人が増え、会ったこともない相手に実印をお願いする——この記事でお伝えした流れを断ち切る一番の方法は、遺言を残して遺産分割協議そのものを不要にしておくことです。自筆で書く際の注意点はその遺言書、使えないかもを、確実な残し方は公正証書遺言の作り方と費用をご覧ください。クロニクルでは、実家の名義変更とあわせて、ご自身の生前対策の論点整理——ご家庭ごとの健康診断——も承っています。
まとめ——実家の「名義の健康診断」から始めませんか
名義変更のご相談で登記簿を確認すると、境界が曖昧、増築部分が未登記といった問題が見つかることが珍しくありません。名義変更のタイミングは、実家の不動産の健康診断の機会でもあります。クロニクルは司法書士と土地家屋調査士の両輪で、権利と境界・建物の両面をワンストップで確認できます。
実際、相続登記のご依頼で登記簿を確認すると、先代が増築した部分が表題部に反映されておらず、母屋自体も未登記だった事例がありました。未登記建物の表題登記と増築部分の変更登記で現況と登記を一致させ、さらに遺産分割で土地を分ける分筆登記も行いました。いずれも測量を伴う土地家屋調査士の仕事です。権利の名義変更だけでは終わらない部分まで、司法書士と土地家屋調査士が一つの窓口で進められれば、ご家族が別々の専門家を訪ね歩く負担をなくせます。
あなたの実家の登記簿の名義は、今、誰になっていますか。まずは固定資産税の納税通知書を一度開いてみてください。家族でどう話せばよいか分からないときは、中立的な手続きの専門家として、話し合いの叩き台づくりからお手伝いできます。お気軽にご相談ください。



