父の相続を放置していたら、母も亡くなった——「数次相続」になる前に知っておきたいこと
2026年7月7日by 代表 髙岡宏

父が亡くなっても実家には母が住んでいる。だから相続手続きは「落ち着いてから」。その先延ばしの間に母も亡くなると、相続は一気に複雑になります。福岡の司法書士・土地家屋調査士事務所が、数次相続のしくみと「遅くても取れる道」を、脅さずに整理します。
父が亡くなって、数年。実家には母が元気に住んでいて、毎日の暮らしに困っていることは特にない。相続の手続きは、いつか落ち着いてからでいい——多くのご家庭が、自然とそう考えます。
その「落ち着いてから」を待っているうちに、母も亡くなった。このとき、それまで先延ばしにしてきた父の相続が、母の相続と重なって、急に重たくなることがあります。
ただ、遅くなっても取れる道はあります。この記事では、その「先延ばしの間に静かに進む変化」を脅さずに整理します。
福岡の現場で実際に起きたこと
当事務所で実際にあったご相談です。お父さまが亡くなった後も、実家の名義は父のまま。数年後に、お母さまも亡くなりました。お母さまは再婚で、前の結婚のときのお子さんがいらっしゃいました。父の遺産分割が済んでいなかったため、父名義の実家をどうするかという話し合いに、父とは血のつながりのないそのお子さんも、相続人として加わることになったのです。長年交流のなかった当事者どうしの話し合いは折り合いがつかず、最終的には裁判所での手続きにまで進みました。もし父の相続を早めに終えていれば、話し合いはお母さまとお子さんたちだけで、静かに済んでいたはずです。
まず言葉の整理:数次相続とは/代襲相続との違い
先ほどのような「父の相続が片付く前に、母も亡くなった」状態を、専門的には数次相続(すうじそうぞく)と呼びます。
混同しやすいのが、代襲相続(だいしゅうそうぞく)との違いです。決め手は死亡の前後です。
数次相続と代襲相続の違い(死亡の前後で分かれます)
・相続人が、被相続人より後に亡くなった場合 → 数次相続。亡くなった方の配偶者なども次の相続人になり、関係者が増えやすくなります。
・相続人が、被相続人より先に亡くなっていた場合 → 代襲相続。その子が代わって相続し、配偶者は基本的に入りません。
本記事のテーマは前者、数次相続です。
なぜ「先延ばし」が静かに難しくするのか
「うちは相続人が少ないし、家族の仲も良いから関係ない」——その実感は、今この瞬間については間違っていません。ただ、相続は時間とともに姿を変えます。すべての先延ばしがすぐ大ごとになるわけではありませんが、いくつかの条件が重なると、難しさが急に増す傾向があります。
第一に、相続人が増える条件です。先ほどの事例のように、遺産分割が済む前にさらに相続人が亡くなると、その方の相続人——配偶者や子(再婚のご家庭では前の結婚のお子さんも含みます)、場合によってはきょうだいや甥姪——へ権利が承継され、面識のない親族まで話し合いの当事者になりうるのです。世代を重ねるほど枝分かれは広がります。
第二に、判断能力という時間の問題です。相続人が高齢化し、認知症などで話し合いに参加できない方が出ると、成年後見人の選任が必要になる場合があるとされ、手続き・費用・時間の負担が一段増えます。
第三に、戸籍の膨張です。代を遡るほど集める戸籍は膨大になりますが、2024年3月に始まった戸籍の広域交付で、以前より集めやすくなりました(戸籍の広域交付の記事で詳しく解説しています)。
そして見落とされがちなのが、ご自身への影響です。名義が父のままだと、実家を売る・担保に入れるといった場面の手前で立ち止まることになります。この宿題は、そのままお子さんの世代へ引き継がれていきます。
「もう手遅れ?」——遅くなっても取れる道があります
何年も父名義のままでも、道はあります。知っておくと心強い2つをご紹介します。
ひとつは、登記を1件にまとめられる場合があることです。数次相続では原則、亡くなった順に登記を重ねますが、中間の相続が単独相続(相続人が1人だった、または話し合いで1人が取得した等)にあたる場合などには、父からいまの相続人へ、1件の相続登記で済ませられることがあるとされています。ただし、遺産分割の内容によっては使えなくなることもあるため、この余地が残っているうちに道筋を設計する意味があります。要件の判断は司法書士にご相談ください。
もうひとつは、相続人申告登記という応急処置です。話し合いがまとまっていなくても、自分が相続人である旨を1人で法務局に申し出れば、ひとまず申請義務を果たしたとみなされる制度です。ただし、不動産を売ったり担保に入れたりするには、別途正式な登記が必要です。
義務化は「脅し」ではなく「動く後押し」として
2024年4月から、相続登記の申請が義務化されました。不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が求められ、正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される場合があるとされています。これは行政上のもので、前科がつく刑事罰ではありません。
しかも、施行前に発生した相続も対象です。すでに未登記の場合は、原則として2027年3月31日までが一つの目安とされています。「父が何年も前に亡くなった」というケースは、まさにこの経過措置にあたることが多いといえます。
ただ、過料は催告などの段階を経るもので、いきなり請求されるわけではないとされています。期限は、怖がるためではなく、いま動くきっかけとして受け止めていただければと思います。(法的な点は個別の事情で扱いが変わります。最終判断は専門家にご確認ください)
古い実家ならではの落とし穴:名義変更と「土地・建物の実態」は同時に出てくる
福岡の古い実家では、名義変更に動いた途端、登記簿と現況のズレが表面化することがよくあります。未登記の増築、地番と現況の不一致、隣地との境界の未確定などです。
ここに、名義変更(司法書士)と土地・建物の実態整理(土地家屋調査士)を一気通貫でお引き受けできる事務所の利点があります。窓口がひとつなら、書類のやりとりや調整の往復が減ります。一度きりで全部片付けたい数次相続とは相性の良い組み合わせです(空き家の名義変更の記事もあわせてご覧ください)。
代を重ねるほど、当時の事情や現況を知る方も減り、実態の整理も早いほど楽になります。
費用・税金・もめごとの考え方(業際とワンストップ)
費用と税金についても、誠実にお答えします。
まず費用です。金額は事情によって変わりますが、相続人が増えるほど戸籍収集や調査の範囲が広がり、手間も費用も増えやすくなります。財産の全体像をつかむ第一歩としては、財産目録の作り方も参考になります。
次に税金です。数次相続では、相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)という相続税の控除制度が関わることがあります。ただし、適用の可否や具体的な計算は税理士の領分で、私たちが税額の判断をすることはできません。
そして、話し合いがこじれそうなときは弁護士の領分です。なお、預金が動かせず困るケースは預貯金の凍結と引き出しの順番で扱っています。
ここで大切なのは、ご自身で専門家を探していただく必要はない、ということです。クロニクルは税理士・弁護士などの専門家と提携しており、私たちが窓口となって、しかるべき専門家へお繋ぎします。
これからの一番の備えは、遺言を残すこと
相続登記が義務化された今、私たちが一番の対策としてお勧めしたいのは、遺言の作成です。
遺言がない相続では、名義変更の前提として相続人全員での遺産分割協議が必要です。今回の事例のように当事者が増えてしまうと、この協議こそが最大の関門になります。有効な遺言があれば、実家を誰が引き継ぐかが最初から決まっているため、協議を経ずに登記へ進めます。数次相続の入り口を、そもそも作らないということです。
いま実家に親御さんがお住まいなら、お元気なうちに遺言を話題にしてみてください。作り方と費用は公正証書遺言の作り方と費用で、実行する人まで決めておく備えは遺言執行者の選び方で解説しています。
まとめ:揉めていない今こそ、いちばん楽に終えられる時期
「揉めていないから大丈夫」ではなく、「揉めようがない今こそ、最も楽に終えられる時期」です。今日できる小さな一歩は、実家の不動産が、今、誰の名義になっているかを確認することです。もし父名義のままなら、数次相続の入り口に立っているのかもしれません。
相続のかたちは、ご家庭の家族関係や財産状況によって一つひとつ違います。福岡で登記と土地・建物の調査の両輪を持つクロニクルでは、ご家庭ごとの「健康診断」——登記を1件にまとめられる余地はあるか、期限はいつか、これから何を備えるべきかという論点整理——を承っています。気がかりがあれば、気軽にご相談ください。
あなたの実家は、今、誰の名義になっていますか?



