成年後見の改正で任意後見はどう変わる——今結んでも使えるか

司法書士・土地家屋調査士 髙岡 宏
2026年10月5日

成年後見制度の改正で、任意後見はどう変わるのか。施行日は2026年10月時点で未定ですが、今結ぶ任意後見契約も改正後の法律のもとで使えるとされています。任意後見監督人の例外や補助との併用など確定した改正点と、元気なうちにしか決められないこと、家族信託・遺言との組み方を福岡の司法書士が整理します。
「改正されるなら、決まってから考えたほうがいいですよね」。成年後見の法律が変わると報じられてから、親御さんの備えのご相談で聞くようになった一言です。
「後見」という言葉が出ると、皆さん少しだけ背筋が伸びます。待てるものなら待ちたい、というお気持ちも分かります。
けれど、待つかどうかを決める前に、改正で何が変わり、何が変わらないのかを見ておきましょう。結論から言えば、今結ぶ任意後見契約も、改正後の法律のもとで使えます。
任意後見の仕組みや、法定後見・家族信託との違いは、任意後見契約の基礎という記事にまとめています。
成年後見制度の改正はいつから——決まったこと・まだ決まっていないこと
改正法の中身は、もう条文で固まっています。ただ、いつから始まるのか、つまり施行日はまだ決まっていません。
| 決まったこと | まだ決まっていないこと |
|---|---|
| 2026年6月17日に成立、6月24日に公布 | 施行日(政令で定める。2026年10月時点で未定) |
| 施行は「公布から2年6か月以内に政令で定める日」。遅くとも2028年12月まで | 家庭裁判所の運用(後見を途中で終えることや、任意後見監督人を置かない例外を、どこまで認めるか) |
| 条文の中身(次の節から) | 後見人や監督人の報酬の水準 |
この記事は2026年10月時点の情報です。施行日を決める政令が出たら追記します。
何が変わるのか——後見と保佐は補助へ一本化
今の法定後見には、判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の三つの型があります。改正後は後見と保佐がなくなり、補助にまとまります。原則として、ご本人に必要な事項を選んで、補助人に代理や取消しの権限を付ける形です。取消しとは、ご本人が結んだ不利な契約を、後から取り消すことです。
今の後見は、判断能力が戻らない限り、ご本人が亡くなるまで続くのが原則です。改正後は、必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、終えることができます。報道で「終われる後見」と呼ばれている変更で、法律上の呼び名ではありません。
どちらも大きな変更です。ただ、二つとも、判断能力が落ちて制度を使い始めてからの話です。ですから、「改正を待ってから」とおっしゃる方にも、当事務所がお勧めすることは、改正前とあまり変わりません。
任意後見は改正でどう変わるのか
任意後見を始めるときには、任意後見監督人が選ばれます。監督人は、任意後見人の仕事をチェックする人です。監督人への報酬は、ご本人の財産から支払われます。
では、改正で監督人は要らなくなるのでしょうか。いいえ、原則として、これまでどおり選ばれます。明らかに監督の必要がないと家庭裁判所が認めるときに限って、監督人を置かず、裁判所が直接監督する例外ができました。どこまで認められるかは、これからの運用次第です。
ご本人が訪問販売などで、要らない契約を結んでしまったらどうなるか。任意後見人には、その契約を取り消す権限がありません。取消しの権限は、法定後見の側にあります。
ところが今の法律では、任意後見を使い始めた後に法定後見が始まると、任意後見契約は終わってしまいます。改正でこの決まりがなくなり、任意後見を続けたまま、必要な部分だけ補助を足せるようになりました。ただし、ご本人の利益のため特に必要があると家庭裁判所が認めるときに限られます。
任意後見は、誰かが家庭裁判所に申し立てないと始まりません。契約を結んでいても、申し立てる人がいなければ、任意後見は始まらないままです。改正後は、ご本人が公正証書で指定しておいた人も申し立てられます。親族でなくてもかまいません。
今結ぶ任意後見契約は、改正後も使えるのか
使えます。改正法には、施行日より前に結んだ任意後見契約にも、改正後の法律を当てはめる決まりがあります。
改正を待つのは、新しい機種が出るまでスマートフォンの買い替えを控えるのに似ています。ところが任意後見契約は、買ったあとで中身が新しい版へ自動で更新される機種です。施行の時点でまだ使い始めていなければ、改正後のルールでそのまま始められます。作り直す必要はありません。
しかし、新しく増えたアプリまでは、自動では入りません。先ほどの「申し立てる人の指定」がそれです。契約とは別に、施行後にご本人が公正証書でしておく手続きです。指定しておきたくなったら、ご本人がお元気なうちにご相談ください。
お母さまのために任意後見を考えているなら、契約を結ぶのはお母さまご本人です。待つあいだに、契約を結べないほど判断能力が落ちれば、任意後見という選択肢はそこで閉じます。
施行日は未定で、遅ければ2028年12月です。いつ備えるかは、改正の日程では決まりません。お母さまの年齢と、今のご様子で決まります。
改正されても変わらないこと
誰に、何を、どこまで頼むか。任意後見なら、ご本人が自分で決めておけます。法定の補助は改正で使いやすくなりますが、補助人を選ぶのは家庭裁判所です。ご本人の意見は考慮されても、ご本人が選ぶことはできません。
後見は、法定でも任意でも、ご本人の財産をご本人のために守る仕組みです。後見人はご本人の利益と意向に沿って判断し、家庭裁判所や監督人の目も入ります。この性格は、改正後も変わりません。
「改正で後見が使いやすくなれば、家族信託は要らない」という見方もあります。使いやすくなるのは事実です。しかし、家族や次の代を見据えた話になると、事情が違ってきます。
実家を次に誰へ、その次に誰へ渡すか。順番まで決めておきたい、と考える方がいます。二世帯で住めるよう、実家を建て替えたいという方もいます。こうした希望は家族の先々を見た計画から出てくるもので、ご本人の財産を守るための後見には向きません。
後見を否定するつもりはありません。畑が違うのです。ご本人が元気なうちに決めた目的と順番に沿って、財産を預かり、次の代へ渡す。その役割は、改正後も家族信託が担います。
任意後見だけで足りるのか——暮らし・財産・亡くなった後で組み方を決める
実際のご相談で、任意後見だけをお勧めすることは、ほとんどありません。遺言や家族信託と組んで設計します。どう組むかは、次の問いで振り分けます。
- 暮らしの手続きを、誰かに頼む必要があるか。施設や介護サービスの契約、日々の預金の管理です。ここは任意後見の役目です
- 実家のように、渡す順番まで決めておきたい財産はあるか。あれば家族信託です。ただ、家族信託で扱えるのは信託に入れた財産だけで、暮らしの手続きは受け持てません。そのため、多くの場合は任意後見と組みます
- 亡くなった後、誰に何を渡したいか。任意後見は、ご本人が亡くなれば終わります。信託に入れていない財産の行き先は、遺言で決めます
渡す順番まで決めておきたい財産がなく、預金と年金で暮らしが回るご家庭なら、任意後見と遺言で足りることもあります。
家族信託をいつ始めるかは、認知症リスクと家族信託・いつ始めるべきかに書いています。
クロニクルにできること
任意後見の公正証書は、公証役場との調整から一緒に進めます。家族信託の契約書と信託登記、遺言まで、同じ窓口で組めます。施行後に、申し立てる人を指定しておきたくなったときも、引き続きお受けします。
クロニクルの生前対策コンサルティングは、ご家庭の健康診断です。暮らしのこと、財産のこと、亡くなった後のことを一緒に見ながら、どこから備えるかを整理します。
お母さまの備えを、どこから始めますか。決めかねているなら、一度お聞かせください。





