司法書士・土地家屋調査士事務所クロニクル
遺言

遺言書は見つかった、でも納得できない——相続人が取れる選択肢を整理します

2026年7月21日by 代表 髙岡宏

遺言書は見つかった、でも納得できない——相続人が取れる選択肢を整理します

亡くなった親の遺言書が出てきた。でも「一人だけに全部」など、どうしても納得できない。そんなとき、相続人は何ができるのか。福岡の司法書士・土地家屋調査士が、勝手に開けない検認の話から、無効を争う道と遺留分の道、全員が合意すればできることまで、業際の線引きとあわせて整理します。

四十九日も済まないうちに、実家の引き出しから一通の封書が出てくることがあります。表には「遺言書」。開けてみたい気持ちを抑えて中身を推し量ると、書いてあるのは「すべての財産を長男に相続させる」の一行だけ——。介護を担ってきたご本人にとっては、頭が真っ白になる場面です。私のところにも、こうしたご相談は少なくありません。

先にお伝えしておきたいことがあります。「納得できない」という気持ちには、いくつも種類があります。そして種類によって、進む道も、相談すべき相手も変わります。この記事では、感情に寄り添いながら、その道筋を整理します。もし今まさに封書を手にしている方がいれば、まずは一つだけ守ってください——勝手に開けないこと。次の章から順にお話しします。

その封を、勝手に開けないでください

自筆で書かれた遺言書(自筆証書遺言)は、家庭裁判所の「検認」という手続きを経てから開けるのが原則です。検認は遺言の有効・無効を判断するものではなく、その時点の状態を家庭裁判所が記録し、後の変造を防ぐための手続きです。封をされた遺言書を勝手に開けてしまうと、過料の対象になることがあります。

例外もあります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使っていた場合は、検認は不要です。また、公正証書でつくられた遺言も検認は要りません。焦って開けたい気持ちはわかりますが、検認を経ずに開けても遺言そのものが無効になるわけではないとされる一方、後々「変造したのでは」と疑われる火種を残しかねません。ご自宅で見つかった封書がどれに当たるのか、判断に迷ったら、開ける前にご相談ください。自筆証書遺言そのものの注意点は、自筆証書遺言の落とし穴でも詳しくお話ししています。

「納得できない」を、二つに分けて考える

ここが今日の要です。「納得できない」は、大きく二つに分けられます。

一つ目は、「そもそもこの遺言は有効なのか」という疑いです。日付や署名押印が欠けている方式の不備、認知症などで書いた時点の判断能力(遺言能力)が疑わしいケース、筆跡が本人のものと思えない偽造・変造の疑い——こうした「効力そのものを争う」場面です。二つ目は、「遺言は有効だと思う。でも自分の取り分が少なすぎる」という不公平感です。

この二つは、進む道がまったく違います。前者は遺言無効確認訴訟という争いになり、これは弁護士の領域です。後者は、法律が保障する最低限の取り分を金銭で請求する「遺留分侵害額請求」の話になります。2019年の民法改正で、遺留分は不動産の共有ではなくお金の請求権に一本化されました(民法1046条)。金額の考え方や設計は遺留分対策(想いどおりに渡し切る3つの設計)で整理していますので、あわせてご覧ください。

まず「どちらの納得できなさなのか」を見極める。これが最初の分かれ道です。

全員が合意すれば、遺言と違う分け方もできる

意外に知られていませんが、相続人と受遺者の全員が合意すれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議を行うことも実務上は可能です。「長男にすべて」と書かれていても、当の長男を含む全員が「兄弟で分け直そう」と納得するなら、その合意に沿って分けられる場合があります。争うだけが道ではない、ということです。裁判例でも、相続人全員の意思が一致するのであれば、遺言と異なる遺産分割は当該遺産の贈与や交換を含む契約と捉えることができ、その効力を否定することはできない、という考え方が示されています(さいたま地方裁判所 平成14年2月7日判決)。国税庁も、遺言と異なる分割ができることを前提に、その場合の課税関係を整理しています。

たとえば、こんなご相談がありました。お母さまの遺言は「実家は長男に」の一行。けれど長男自身が「妹の介護の苦労を知っている。二人で分け直したい」と申し出て、預金を妹に多めに割り付ける協議にまとまった、というケースです。遺言があっても、当事者の気持ちが同じ方向を向けば、穏やかな着地はあり得ます。

ただし、ここは単純化できません。遺言で遺言執行者が指定されている場合はその同意や関与が必要になりますし、相続人以外の受遺者が含まれるときはその方の同意も要ります。誰か一人でも欠ければ成り立ちません。もう一つ見落とされがちなのが税金です。「実家は長男に」のような「相続させる」旨の遺言は、お亡くなりになった時点でいったん長男に権利が移るとされています。そのうえで分け直すと、内容によっては長男から他の相続人への贈与や交換とみなされ、贈与税や不動産取得税などがかかる場合があります。税務の判断は税理士の領域ですので、分け直す前に確認が必要です。実際に組めるかどうかは個別の事情しだいで、ここは要確認の領域です。兄弟で実家をどう分けるかという論点は、兄弟で実家をどう分ける(遺産分割)でも扱っています。

正直に、線を引きます

クロニクルにできることと、できないことを、はっきりお伝えします。遺言の有効性を争う交渉、遺言無効確認訴訟や調停の代理は、弁護士の領域です。相続税など税務の判断は税理士の領域です。ここに私たちが立ち入ることはありません。紛争性が出てきた場合も、ご自身で専門家を探していただく必要はなく、提携の弁護士へクロニクルが窓口となってお繋ぎします。

一方で、全員の合意ができた後——遺産分割協議書に基づく相続登記や、期限のある相続人申告登記は、司法書士であるクロニクルの領域です。さらに、もめごとの震源になりやすい実家不動産については、司法書士と土地家屋調査士を兼ねている強みがあります。土地の現況・境界・面積を固め、分筆という分け方の選択肢まで含めて、評価から登記まで一体でお手伝いできます。財産の全体像をつかむ第一歩は、財産目録の作り方からです。

まとめ——もめる遺言の、本当の震源

こうしたご相談に立ち会って感じるのは、紛争の多くが「遺言の中身」そのものより、「なぜその配分にしたのか、理由が家族に伝わっていない」ことから起きている、ということです。理由のわからない偏りは、残された家族に「自分だけ軽く扱われた」という感情を残します。震源は、金額よりも納得感なのです。

だからこそ、立場を変えてご自身の番を考えてみてください。想いを込めた配分ほど、その理由を言葉で残すことが大切です。付言事項で想いを添えた公正証書遺言、信頼できる遺言執行者の選び方を意識した設計、そして遺留分まで見据えた配分——これらは、ご本人が元気なうちにしかできない生前対策です。「納得できない遺言」を家族に残さないための備えでもあります。

クロニクルの生前対策コンサルティングは、ご家庭の健康診断のようなものです。誰が相続人になり、どんな論点がありそうか。一緒に整理するところから始めます。今まさに封書を前に悩んでいる方も、いつか自分が書く側になる方も、気がかりがあれば気軽にご相談ください。あなたの遺言は、配分だけでなく「その理由」まで、家族に手渡せる形になっているでしょうか。

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