信託口口座はどの銀行で作れる——福岡の取扱いと選び方

司法書士・土地家屋調査士 髙岡 宏
2026年9月25日

家族信託の信託口口座は、取扱いのある金融機関を選んで作ります。福岡県内の地方銀行にも、受入基準を公表しているところがあります。福岡の司法書士が、信託専用口座との違い、公正証書の前に済ませる契約書案の確認、口座を開ける前にご家族で決めておくことまで整理します。
「母の銀行の口座は、家族信託にできるんですか」。ご相談の席で、たびたびいただく問いです。
前回の受益者連続信託とはでは、財産を渡す順番のお話をしました。今回はその先、信託したお金を入れておく口座の話です。
この口座は、取扱いのある金融機関でしか作れません。先に金融機関を決め、その基準に合わせて契約書を作ります。福岡の実情から、順に見ていきます。
信託口口座とは——名義に「信託口」と入った口座
信託した財産のお金だけを、受託者になる方が入れておく口座です。ご自身の生活費は入れません。当事務所で開設したときの名義は、「委託者〇〇、受託者〇〇 信託口」という表記でした。
実は「信託口口座」という言葉に、法令上の定義はありません。日本司法書士会連合会の執務ガイドラインが、そう明記しています。ですから扱いも、機関によって少しずつ違います。
万一、受託者が先に亡くなったら——信託口口座がなぜ要るのか
受託者が亡くなって任務が終わっても、信託した財産は受託者の相続財産には含まれないとされています(信託法74条1項)。
ところが銀行の窓口は、法律より先に口座の名義を見ます。受託者ご自身の名義で預けてあれば、外からは受託者の預金と区別がつきません。そのまま相続の手続きが始まります。名義に「信託口」と入っていれば、引き継ぐのは相続人ではなく後任の受託者です。ただし後任の就任が確認できるまで、口座が止まることはあります。
実家を信託に入れたときは、登記簿に信託だと書き込めます。そのことは信託契約だけでは、実家は守れませんに書きました。預金には、その登記に当たるものがありません。名義が、その代わりを務めます。
ですから、受託者になるお子さんの普通口座で代用したい、というご相談にはこうお答えしています。法律は守ってくれますが、窓口はそこまで読んでくれません。
「信託口」と書いてもらえば足りるのか——信託口口座と信託専用口座の違い
そもそも法律は、信託口口座を作れとは書いていません。金銭は、その計算を明らかにする方法で分けて管理すれば足りるとされています(信託法34条1項2号ロ)。
よく似た言葉が二つあります。信託口口座は、信託のための口座だと金融機関が承知のうえで開き、受託者が代わったときの引き継ぎまで手当てしたものです。信託専用口座は、受託者ご自身の名義の普通口座を信託した財産だけに使う形で、金融機関から見れば普通の口座のままです。
名前だけでは、この二つを見分けられません。通帳に「信託口」と印字されていても、それは看板です。中身の保証ではありません。受託者が代わったときに次の方へスムーズに引き継げないおそれがある、と日本司法書士会連合会のガイドラインも書いています。
信託口口座はどの銀行で開設できるのか——福岡で公表されている受入基準
当事務所で開設を進めて、断られたことはありません。つまずくとすれば、そもそもその金融機関に取扱いがないときです。ですから当事務所が先に探すのは、作ってくれる銀行ではなく、取扱いのある金融機関です。ただし取扱いがあっても、応じるかどうかは個々の金融機関の判断です。
まず、公表されている受入基準を読みます。福岡県内の地方銀行には、公式ページに載せているところがあります。熊本の地方銀行は、2022年時点の公表資料で、公正証書によるものだけを受け入れるとしていました。福岡には、宣誓認証を受けた私文書まで通るところもあります。同じ九州でも、揃える書類が変わります。
ここで金融機関の一覧をお出しすることはございませんが、実際に挙げられている条件を並べてみます。受入基準も取扱店舗も、ときどき変わるものですから。
| 公表されている受入条件の例 | 何を意味するか |
|---|---|
| 契約書の案文を事前に確認する | 案の段階で、金融機関が中身を読みます |
| 専門家(士業)が作成に関与した契約に限る | そう公表する金融機関があります。ご家族だけで作った契約書は通りません |
| 公正証書によること | もっとも多く見かける条件です |
| 受託者ご本人が最寄りの本支店に来店すること | そう公表する金融機関があります。代理の方では受け付けられません |
| 回答までに時間がかかる/申込当日の開設はできない | 申し込んだその日に口座は開きません |
お母さまご本人が窓口で銀行と会うことになるかどうかも、銀行によって異なります。
手数料はかかります。額は金融機関によって異なります。費用の全体像は家族信託の費用相場をご覧ください。
順番——公正証書にする前に、金融機関へ持ち込みます
実際に開設したときは、事前審査が挟まりました。金融機関は、できあがった公正証書ではなく、契約書の案に目を通します。その案は、司法書士から金融機関へ提出します。案の確認が先、公正証書はその後です。
順番にすると、こうなります。
| 順番 | すること | 決まること |
|---|---|---|
| ① | 取扱いのある金融機関を選ぶ | この信託を、どの基準に合わせて作るか |
| ② | 司法書士が契約書の案を、その金融機関に提出する | 直せるうちに直す |
| ③ | 公正証書にする | ここから先は、直すたびに費用がかかる |
| ④ | 信託の登記を申請する(⑤とどちらが先でも構いません) | 登記簿に信託の設計図が載る |
| ⑤ | 受託者ご本人が窓口へ行き、口座を開く | 信託のお金が動き出す日 |
逆の順で進めても、直せなくなるわけではありません。公正証書にしたあとで修正を求められたら、変更の契約を結んで内容を直せます。ただし公証人の手数料は、そのたびにかかります。
口座を開ける前に、ご家族で決めておくこと——信託口口座に、いくら入れて、どう使うか
金融機関の条件ばかりを見ていると、ご家族の側の決めごとが後回しになります。口座を開ける前に、ご家族で話しておいてください。
- 信託口口座にいくら入れ、お母さまの手元にいくら残すか
- 毎月の生活費は、どこからどう流れるか。引き落としは何を残すか
- 通帳は誰が持ち、誰に見せるか
入れる額の目安は、最低ラインが実家の固定資産税の3年分くらいです。まとまった額を入れられるなら、そのほうが好ましいと考えています。
あとからお金を足すこと(追加信託)も、厳密には一つの契約です。認知症への備えで組む信託で、お母さまとお子さんが何度も契約を交わすのは、できれば避けたいところです。足さなくても回るだけの額を、最初に入れておきます。
通帳の置き場所は、後から効いてきます。ご家族への報告の話は、信託監督人は、託された子を守る盾ですにも書きました。
取扱いのある金融機関が見つからないときは——日司連ガイドラインが示す別の備え方
取扱いのある金融機関が見つからないことと、信託が組めないことは、別の話です。ご相談の大半は認知症への備えで、実家信託はまず不動産を守ります。
日本司法書士会連合会のガイドラインは、信託口口座を開設しないことに合理的な理由がある場合の対応を示しています。受託者の口座が信託した財産だけを管理する専用の口座であることを、委託者と受託者の間で別途の確認書にしておく必要がある、と書かれています。対応する金融機関がない地域であることも、その理由に挙がっています。
さきほどの信託専用口座で行く形です。選ぶなら、万一受託者が先に亡くなったときの手当てを、どこまで書面で補うかを決めることになります。
税理士に確認しておきたい場面
気になるのは、お母さまのお金を信託口口座に移したら贈与になるのか、でしょう。
信託では、税務上の持ち主は受益者とされています。ご自身のご家庭に当てはめるとどうなるか、税務署へ出す書類が要るかどうかは、税理士の領域です。
相続や信託まわりは、資産税という別の畑です。顧問の先生の多くは法人税を扱っておられます。替える話ではありません。この一件だけ入っていただく形で、クロニクルから資産税に詳しい税理士をご紹介できます。
クロニクルにできること
契約書の案から、金融機関との事前確認、公正証書の段取り、信託の登記まで、同じ窓口で担えます。信託する実家に未登記の建物や境界の心配があれば、土地家屋調査士としても扱えます。ご家族の間で争いになった場合は、クロニクルが窓口となって提携の弁護士へお繋ぎします。
生前対策コンサルティングは、ご家庭の健康診断です。
いつ動き出すかは認知症リスクと家族信託・いつ始めるべきかをご覧ください。
ご検討中の信託は、どの金融機関に合わせて組むかが、もう決まっているでしょうか。それとも、これから決めるところでしょうか。決まっているなら、その基準に合わせて契約書の案を作ります。まだなら、ご家族の事情を伺うところから始めます。一度お聞かせください。






