受益者連続信託とは——妻の次に子へ、渡す順番を決めておく方法

司法書士・土地家屋調査士 髙岡 宏
2026年9月2日

受益者連続信託は、妻に渡したあと最後は子へ、と渡す順番を決めておける仕組みです。遺言で決められるのは、財産の行き先一代分まで。福岡の司法書士が、次の遺言が書けなくなる前に決めておく意味、実務の目安は二世代まで、遺留分と税金の枠組み、向かないご家庭まで整理します。
「妻に渡したあと、最後はうちの子にあげたい」。家族信託のご相談で、こう言われることがあります。
前回の受益者だけは、契約書を作る日に決まりますでは、生きている間に受益者を変える方法を整理しました。亡くなった後に受益者がどう移るかは、受益者連続という別の仕組みで決まります。今回は、その続きです。
世代を超えた承継と聞くと、旧家や資産家の話に聞こえるかもしれません。この記事は、再婚されたご家庭に向けて書いています。ご自身のことでなくても、ご両親のどちらかが再婚されているなら、そのままご両親の話になります。先にお断りしておくと、無限につなげられる仕組みではありません。どこで尽きるのかも含めて、整理します。
遺言に書けるのは、一代分です
「自宅は妻へ。妻が亡くなったら、先妻の子へ」。遺言にこう一行書き足せば済む、と思われがちです。正直に申し上げると、この一行で済むなら、家族信託という仕組みは要らなかったはずです。
実際には、後半が思いどおりになりません。「妻へ」までは効力が及びますが、「妻が亡くなったら先妻の子へ」の部分は、効力が認められないと考えられています。妻が受け取った時点で財産は妻のものとなり、その先は妻自身が決めることになります。
遺言で決められるのは、自分の財産の行き先一代分までです。その先の順番まで定めておける道具として、法律は受益者連続信託(信託法91条)を用意しました。
バトンは、受け取れても渡せないことがあります
よくいただくご相談を、一つのモデルケースに再構成してご紹介します。
再婚のご夫婦がいらっしゃるとします。夫は70代で、先妻との間にお子さんが一人います。自宅は夫の名義です。夫の希望はこうです。「自分が亡くなった後も、妻にはこの家に住み続けてほしい。妻も亡くなったら、家は先妻の子へあげたい」。
遺言のリレーで組むなら、夫が「妻へ」と書き、妻が「先妻の子へ」と書くことになります。ただ、妻がその遺言を書いてくれる保証はありません。書いてくれたとしても、遺言はいつでも書き換えられるからです。書く気持ちがあっても、高齢の妻が認知症になれば、今度は書けません。バトンは受け取れたのに、次へ渡せない。
受益者連続信託は、その渡し先を夫が元気なうちに決めておく仕組みです。「妻の次は、先妻の子」と契約書に書いておけば、後から妻が遺言を書く必要はありません。妻が認知症などで書けなくなっても、問題はありません。順番は、契約書のほうに書いてあるからです。信託をした後であれば、夫が生きている間の受益者は夫です。つまり、これまでどおり夫は、この家に住み続けられるのです。
言葉を整理しておきます。信託をすると、家の名義は管理を任された方(受託者)へ移ります。そのうえで、その家に住む、貸して家賃を得る、売ったお金を受け取る——こうした恩恵を受ける立場が別に残ります。この立場の方を受益者と呼びます。信託をした時点でこの立場にある方が当初受益者(一次受益者)、次に引き継ぐ方が二次受益者です。モデルケースでは、夫が当初受益者、妻が二次受益者、先妻の子がその次です。二次以降の方は、前の方の権利を相続で引き継ぐのではありません。前の方の権利がいったん消え、新しい権利を取得する、という組み立てです。受託者と受益者の関係は、実家信託という選択に詳しく書きました。
ご相談で一番多いのは、夫から妻へ、そして妻から子へという順番です。再婚のご家庭に限った話ではありません。ご夫婦とも高齢のご家庭で、まず妻が受け取り、その後は子へ、という形です。入口も「世代を超えた承継」ではないことがほとんどで、認知症対策のご相談の途中に「そういえば、その後は」と話が及びます。
実務では、二世代までです
順番まで決められると分かると、「では孫、ひ孫、その先も」と話が弾みます。そこで条文を開いてブレーキを踏むのが、司法書士の生真面目なところです。
法律には、信託をした時から30年という区切りがあります。ただ、この区切りが問題になることは、実際にはほとんどありません。三代先、四代先まで組むことがないからです。
目安は、二世代先まで。夫から妻へ、妻から子へ。そこで区切ります。先が長くなるほど、ご家族の事情も、家の使いみちも読めなくなります。設計で考えるのは「どこまで書けるか」ではなく、どこまでにしておくか、です。
遺留分と、税金の話
順番を決めても、遺留分は消えません。受益者連続の定めを置いても、遺留分の主張の対象になり得ると考えられています。承継先を指定することと、争いを防ぐことは、別の話です。だからこそ、ほかの相続人の取り分をどう手当てするかまで含めて、争いの起きない組み方をします。それでも万が一、紛争になってしまった場合は、クロニクルが窓口となって提携の弁護士をご紹介します。
受益者が変わるたびに、税金の話が出てきます。前回の記事で、対価を払わずに受益者が変わったときの扱いをご紹介しました。前の方から財産をもらったものとして扱われる、という規定です(相続税法9条の2第2項)。同じ規定が、その変わったきっかけが亡くなったことである場合には、遺言でもらったのと同じ扱いにすると定めています。妻から先妻の子へ移る場面は、相続税の枠組みで考えることになります。
気になるのは、順番を決めておくと相続税が安くなるのかどうかでしょう。安くはなりません。妻が受け取るのは「妻が生きている間だけ」の期限つきの権利ですが、税の計算では、その期限は付いていないものとして扱われます。期限つきだから割り引く、とはならないのです。家族信託は、節税のための道具ではありません。
なお、契約をした時点では、次に受け取る方に税金はかかりません。かかるのは、実際に受け取った時です。
あてはまるか、いくらになるかは、税理士の領域です。顧問税理士がいらっしゃる方も多いと思います。ただ、多くの顧問の先生は法人税の畑で、相続や信託の税は資産税という別の畑です。顧問を替える話ではありません。この一件だけ、資産税に詳しい税理士をクロニクルからご紹介できます。税理士に聞くのは、契約書ができてからではなく、設計を決める前です。
向かないご家庭も、あります
先祖代々の土地を守りたいご家庭や、障がいのあるお子さんの親なき後に備えるご家庭でも、順送りの定めは使われています。会社の株の承継は、事業承継信託の記事に書きました。ただし、どのご家庭にも向く仕組みではありません。
- 承継先が一つ先まででよいご家庭。遺言で足ります。そうしたご家庭には、長い信託を保つ手間と受託者の負担は割に合いません。
- 指定が遺留分の火種になるご家庭。特定のお子さんや家系に寄せる設計は、指定から外れた相続人の遺留分と衝突しやすくなります。
- 受託者を数十年務められる方がいないご家庭。順送りの信託は、どうしても長くなります。受け取る側にも同じことが言えます。次に受け取る方が高齢や障がいでご自身の権利を行使しづらいなら、受益者代理人などの手当ても要ります。詳しくは信託監督人の記事をご覧ください。
- 亡くなった後まで細かく縛りたいご家庭。売却などを厳しく制限しすぎると、将来の住み替えや現金化の妨げになり得ます。亡くなった後まで決めておくことの重さも、一度考えてみてください。
迷ったときは、二世代まで。実務の答えは、たいていそこに落ち着きます。
クロニクルにできること
「妻のあとは、先妻の子へ」。契約書では、たった一行です。しかしその一行が、信託がいつ終わるか、残った財産が誰に帰るか、遺留分に触れるかどうか、各世代の税金までをまとめて決めてしまいます。決めるには、ご家族の構成とお持ちの財産を、一度机に載せることが要ります。
クロニクルは、契約書の設計から信託登記、受益者が移ったときの信託目録の変更登記まで、同じ窓口で担えます。受益者が移っても、家の名義は動きません。動くのは信託目録です。
生前対策コンサルティングは、ご家庭の健康診断のようなものです。順送りの定めを置けるのは、財産を託すご本人が判断できる今だけ。いつ動き出すかについては、認知症リスクと家族信託・いつ始めるべきかをご覧ください。
あなたのご家庭の信託は、最初に受け取る方の代で終わる設計でしょうか。それとも、その先まで運ぶ設計でしょうか。決めかねているなら、一度お聞かせください。ご家族の顔ぶれと、お持ちの財産を書き出すところから、ご一緒します。






